HEAD/phones~ヘッド・フォン~
「マンガ描いてるか?」
ノブオはまだ外にいる陽助に聞いた。
「えぇ…描いてはいるんですけどねぇ…まだ少ししか」
陽助はまたもや申し訳なさそうに言葉を返す。まるで尋問にあっているようなその光景を見る度に、健太郎は陽助を哀れに思ってしまう。マンガ家になりたいという陽助を思っての事だとは分かっているのだけれど。
「そんなんじゃマンガ家にはなれないぞ!」
ノブオは先生のような口調で言う。
「そうですねぇ…」
そして、陽助は黙り込んでしまう。
描いたマンガを何度か見せてもらった事があるが、健太郎には少し理解しがたいものであった。
例えば、登場人物が最初みんな裸で、何をするわけでもなくただそれぞれ服を着ていくだけのものや、飛行機が墜落して地中深くに潜っていくものなど、意味が分からないというより、意味がないように思われるものばかりだった。けれど、陽助らしさは出ているような気はした。決して上手いとは言えない絵にも、それは言える事であった。
陽助は初めて会った時からみんなに敬語を使っていた。それで健太郎はてっきり年下と勘違いしていたのだけれど、実際は同じ歳だった。彼を知るようになってからは、これも彼の個性だと勝手に解釈して気にしなくなっていた。今ではそれが自然体のように思われるから不思議である。