HEAD/phones~ヘッド・フォン~
 さすがに軽自動車に大人の男四人が乗るのは窮屈だったようだ。しかし、四人の中で車を持っているのはノブオだけで、それぞれ何かと利用させてもらっていたので誰も文句は言えなかった。それに言ったとしてもどうにもならない事は分かっていたし。
そんな状態でも、これが大学に入って初めてのキャンプという事もあってみんな興奮気味で、狭いながらもはしゃいでいた。
目的のキャンプ場は雑誌から選抜したもので、僕達の住む町から車で一時間半程の所にあるという事だった。何よりもキャンプ道具の“無料”貸し出しで決めたようなものだった。常に金欠状態の学生がキャンプ道具を持っているはずもなく、どうしようかと思案していたところにこれだ。全員一致で予約も入れずに、さっそく出発したというわけだ。

「でも、ちょうどいいとこが見つかって良かっよな。道具ないんじゃ雰囲気でないだろ?」

運転しているノブオが、噛んでいたガムを窓から吐き捨てて言う。
助手席に座っているのは、同じ美術科の優(まさる)。中・高とラグビーをやっていて体格のいい奴ではあるが、大学に入って勉学に目覚めたらしく、いつも難しそうな本を持ち歩いていた。この日もせっかくのキャンプだというのに、大量の書物をスポーツバッグに詰め込んできていて、その中の一冊を食い入るように黙読している。

「お前さ、なにも車の中で読む事ないだろ?ていうか、キャンプだぞ、キャンプ!なぁ、陽助」

ノブオはそう言ってバックミラー越しに陽助を見やる。

「ええ、そうですね」

後ろの座席にいる健太郎と陽助は、キャンプ場に着くのが待ち遠しくてソワソワしていた。

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