HEAD/phones~ヘッド・フォン~
 夏の風を受けながら、健太郎は優の後ろ姿を見つめていた。今でも優は教授への道を目指しているのだろうか?
あれ以来、優の心の内を知る機会はなかった。
窓を流れる緑が陽の光を反射して、健太郎の顔を照らしいた。それがとても眩しく暖かかった。

「着いたらまず何しましょうか?」

陽助が健太郎に聞いてきたが、意識がまだ完全には戻ってはおらず返事に戸惑っていると、先にノブオが答えた。

「着くのは昼前になるだろうから、とりあえず飯の準備だな」


 健太郎は忌まわしい記憶にとり憑かれていた。誰にも言えない自分の中にだけ封印している記憶。人にはきっと何でもないような事なのだろう。しかし、健太郎にとっては何よりも辛い記憶なのだ。それはもう何年も前の事なのに、頭の隅にはいつも存在している。これからも決して消える事はないだろう。
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