HEAD/phones~ヘッド・フォン~
三年になった頃から暴力はなくなっていった。始まりの理由が分からなければ、終わりの理由も分からない。きっと飽きたのだろう。しかし、自分を苦しめるものはすでに他のモノへと変わっていた。健太郎を嘖むものは、健太郎自身の存在となっていたのだ。初めは相手を殺してやりたいと呪うように思っていたが、時が経つにつれ、その殺意は自分自身へと移っていった。
相手がいなくなったところで、僕の心はもう元に戻らない。過去は消す事が出来ないんだ。それならいっその事、僕自身を消してしまえば楽になるのではないか。これ以上苦しまなくて済むじゃないか。それに何も出来ない自分の弱さが憎くてたまらない。
そんなあらぬ思いにかられ、健太郎は何度となくカッターの刃を手首にあてた。しかし、傷一つつける事が出来なかった。健太郎の心の中には躊躇する気持ちが残っていたのだ。この期に及んで、と自分を激しく罵ったがどうしても吹っ切れなかった。死ぬ事も出来ない健太郎は行き場を失った。そして、生ききれず、死にきれずの日々を過ごすうちに、すべてがどうでもよくなってきた。面倒くさくなってきたのだ。ただ目を開けているだけ、ただ口を開けているだけ、ただ流されるだけ……。

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