HEAD/phones~ヘッド・フォン~
「…車を降りよう」

健太郎は身を乗り出してノブオに言った。

「降りてどうすんだよ」

ノブオは不満そうな声を上げる。

「降りて、現在地を調べる」

「おい、調べるって??こんな山の中で何をどう調べんだよ?!」

「このまま行ってもガソリン食うだけだ。歩いて人なり家なり看板なり探すんだ」

「でも、こんな所に人がいると思うか?何もないぜ」

「そんなの探してみないと分からないだろ?帰れなくなってもいいのか?」

「そんな大袈裟に言うなよ。なぁ、陽助」

「大袈裟じゃないだろ」

「僕もそう思います…」

「……分かったよ」

ノブオは渋々車を止めた。

周りは相変わらず木々で囲まれている。初めの爽やかな印象はすでになくなっていた。今はどちらかと言えば気味悪く感じる。ひんやりと冷たい空気が車の中に入り込んで足元を漂う。そんな不快な感覚から逃げ出すように、健太郎は車から急いで降りた。

「ノブオと一緒に先の方見て来るから、陽ちゃんこの辺りお願い」

「分かりました」

「え~、俺も?」

「七割方お前が原因なんだから」

健太郎は嫌がるノブオを車から引っ張り出す。

「なんでだよ!」

ノブオは口では抵抗しながらも、車から降りるとさっさと先に歩き出した。

「じゃぁ、陽ちゃんお願いね」

「はい」

「優もな」

そう言ったが、おそらく優の耳には届いてないだろう。いつもならそんな姿に感心したりするのだが、こんな状況だけに少し苛立たしさを感じた。

健太郎はノブオの後を追って走った。膝がガクガクする。やっとノブオに追い付き後ろを振り返ると、案の定、優は車に乗ったままだ。そして、陽助は車の周りをウロウロしている。少し心配にもなったが、健太郎は前へと注意を向けた。

「なんか面倒くさい事になったな」

そう言ってノブオは軽く舌打ちをする。

「そうだな…」

健太郎は呆れてそれ以上何も言えなかった。

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