HEAD/phones~ヘッド・フォン~
 陽助は健太郎とノブオが行った後、しばらく車の周りを歩いていた。両脇に広がる不気味な林の中を見やるが、その中に入る気にはなれなかった。見て見ぬふりをしながら道路脇の草むらをかき分けていると、ふと林の奥に発見してしまった。薄暗い中で木々に隠れるようにそれは立っている。

「あれ…立て札ですかね?」

陽助は車の中の優に聞くが、もちろん返事はない。

「違いますかね?」

なおも尋ねてみるが、やはり返事はない。陽助はどうしようかと考えたが、意を決して林の中に足を踏み入れた。
少し湿り気のある空気の中、木々には大量のつる草が巻き付いて緑色にその姿を変えている。それに外からは全部同じように見えた林の中は、近くで見ると植物園のように多彩な緑で溢れていた。さらに、茂り合った木々の葉の隙間から差す陽の光が、幻想的な空間を作り出している。そんな中、異様な雰囲気で立ちすくんでいる立て札に向かって陽助は足を進めた。長い草を手で避けながら近づいていく。足の下はジメジメとしており、足の裏に泥が張り付いて少し重くなった。そして、ようやく辿り着くと一瞬視界が暗くなった。太陽に雲が重なったせいだろう。

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