HEAD/phones~ヘッド・フォン~

健太郎とノブオは五百メートルくらい先まで来ていたが、一向に周りの景色は変わる気配がなく、人らしき気配も全くない。とても静かな山道だった。

「このままだと遭難だな」

ノブオは他人事のようにつぶやく。

「民家とかないかな?」

「人喰い村とか?」

どうやらこの状況をノブオは楽しんでいるようだ。

「…最悪だな」

健太郎は言い返す気力もなかった。
しばらく歩くと少し開けた場所を見つけた。

「とりあえずここまで車持って来るか?」

「そうだな」

「でも、その前に少し休憩」

ノブオは砂利の上に座り込んだ。健太郎も少し疲れたので休みたかった。

---そういえば最近、運動不足かもしれない。大学に入って運動してないもんな…。

健太郎はふくらはぎを軽く揉んでみた。指が抵抗なく奥深くまで入り込んでいく。骨までブヨブヨとした感触だ。

---昔は筋肉あったかな?

そう思ってすぐに思考を停止した。これは健太郎の自己防衛であり、一種の癖のようなものだった。

「夢ってある?」

健太郎は自分の口から出た言葉に戸惑った。

「なんだよ急に」

健太郎自身もそう思っていた。

「あっ…いや…別に何でもない。変だな、なんかボーッとしてたら口から出ちゃって…」

「…俺はあんまり考えた事ないな」

「え?…そっか…」

「俺って一人っ子だろ?そのせいか親が過保護過ぎんだよな。ここだけの話…今でもちゃん呼びだぜ。信じられるか?この歳でだぞ。あっ、お前誰にも言うなよ」

ノブオは照れくさそうだった。健太郎はそんなノブオの顔を見ないように、わざと林の中に目を向けていた。太陽は出ているが、林の中は薄暗く冷気が充満しているようで、見ていると鳥肌が立った。

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