HEAD/phones~ヘッド・フォン~
「俺にはな…兄貴がいたんだ」

「え?だって…」

「俺が生まれる前に死んだらしい」

健太郎の鳥肌は一層酷くなった。それに、背筋に嫌な寒気が走る。

「…そうなんだ?」

「親の期待する気持ちも分かってたから裏切らないようにって思ってたんだけど…ちょっとキツいな」

「厳しいのか?」

「そういうんじゃないけどな」

健太郎は自分とは逆だと思った。今まで自分自身の事で頭がいっぱいだった自分とは。

「意外だな」

「そうか?俺にだって色々あんだよ。お前の方こそどうなんだ?なんか夢あんのかよ」

「これと言って、ないな」

言われてみれば将来の事なんて考えた事がなかったような気がする。どうしてだろう……?

「……それで、今は?」

「今?そうだな……やっぱ思いつかねー」

そう言ってノブオは鼻で笑うと立ち上がった。

「そろそろ車取ってくるからお前はここで待ってろ」

「ああ」

そして、ノブオは一人車の方へと戻って行った。健太郎はその後ろ姿を見ながら、やっぱり運動不足かな、と改めて感じていた。

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