HEAD/phones~ヘッド・フォン~
ノブオは再び車を走らせた。ガソリンの残量を見ながら、もう少し先まで行ってみる事にしたのだ。
このままここにいてもどうなるわけでもないし、可能性がある限り動き回るしかない。死を考えるのは行くところまで行ってからだ。健太郎は心の中で自分にそう言い聞かせていた。

「なんか同じ景色ばっかでつまんなくないか?」

ノブオは退屈そうにあくびをすると愚痴を言い始めた。

「そんな事言ってる場合かよ」

「だってよ、ほんとなら今頃川で釣りなんかしてるはずだったんだぜ?」

「まったく、お前は…」

「ちょっと待て!バカ扱いはやめろよな」

「じゃあ、グダグダ言わずにしっかり前向いて運転してくれよ」

「俺はタクシーの運転手じゃねーぞ!」

「そっちの方が百倍マシ」

「お前、またバカにしてるだろ!」

「してないよね?陽ちゃん」

「え?…ええ、してないです」

「陽助、まさかお前も俺の事バカにしてんじゃねーだろうな?」

「だから危ないって!ちゃんと前向いて運転しろよ!優も黙ってないでなんとか言ってくれよ………あれ?」

「なんだよ?」

「今…林の中に人がいたような気がしたんだけど…」

「ほんとか?俺を騙すつもりじゃ」

「そんな事するかよ…でも、見間違いかもしれない」

「ビビらせんなよな」

「スマンスマン…ってビビったんだ?」

「なわけねーだろ」

健太郎はもう一度注意して林の中の暗がりに目を向けた。しかし、誰もいない。
やっぱり見間違いだったんだろう……けれど、あれは確かに人の形だったと思う。頭に手足……いや、木がそう見えただけかもしれない。内心はきっとすごく不安なのだろう。

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