HEAD/phones~ヘッド・フォン~
健太郎は確信を持てないまま期待を捨てきれずにいた。すると、再びそれは視界に入った。

「あっ!ほら、やっぱり、いたいた!あそこ!」

林の中を指差して興奮気味に叫ぶ。

「またかよ」

「ほんとだって!いいから車止めて!」

ノブオは車を止め窓から乗り出して健太郎が指差す方向を見る。

「どこだよ?」

健太郎は車から降りて林の中を凝視した。
確かに今…あの暗がりに人の姿があったのに…。

「健太郎、誰もいないぞ?陽助、なんか見えるか?」

「何も見えないですねぇ」

「ほらな。きっと見間違いだろ」

いや、確かに何かがいた。木の影なんかじゃない。あれは意思を持ったナニカだった。

「ちょっと見てくる」

健太郎はそのナニカの正体をつかむべく、林の中に入って行った。

「あ、おい!待てよ、健太郎!」

ノブオが車から降りて健太郎を追って来る。

「あ、ちょっと…」

その後を陽助が追う。

健太郎は変な胸騒ぎを覚えながらも林の奥深くへと進んで行く。冷たい空気が肌にしみて骨まで達しようとしていた。

「…確かこの辺だったと思うんだけど」

健太郎は人影がいた辺りまで来たが、それらしきものはどこにもない。

「なんか分かったか?」

追いついたノブオが後ろから声をかけた。

「見間違いなんかじゃない…」

「誰もいないですねぇ」

「どっかに行っちまったのか?」

「分からないけど」

「ここまで来ていないんだから、いないんだろ。さぁ戻るぞ、健太郎」

「そうですよ」

「……そうだよな」

そして、三人が諦めて戻りかけた、その時。

「うわっ!!」

「なんだ!?この臭いは…オェッ!!」

「臭い!!」

どこからともなく臭ってくる強烈な刺激臭が、三人の脳を次第に麻痺させていく。目の奥、鼻の奥、喉の奥、耳の奥が焼けるように熱い。全身の毛穴からも入り込んでくる臭いに五感は奪われ、やがて三人の体は崩れ落ちていった。そして、一瞬にして周りは真っ白な濃い霧に覆われていく。徐々に薄れていく意識の中で、健太郎はもう一度あの黒い人影を見たような気がした。

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