HEAD/phones~ヘッド・フォン~
握り締めていたモノが汗ばんだ手の中から落ちそうになった。男はソレをしっかりと握り直す。

コレは自分が持ち込んだものだ。今となっては凶器とも言えるモノ。
俺には責任がある。しかし、もうどうする事も出来ない。

男はもう一度、後ろを見た。流れ落ちる汗が目に染みる。
何かがおかしい。なぜ追って来ないんだ?コレがないと、あいつは……。

男がそう思った時、首筋にひやりと冷たい空気がまとわりついた。そして次の瞬間、前方の木から突如生まれ出てくるものがあった。男はその異様な光景に立ち止まり目を見開く。

そんな……。

完全に生まれ出た黒い影がゆっくりと立ち上がる。その姿は周囲の闇よりも濃く、はっきりとその存在を示していた。男はその存在を否定するように首を大きく横に振る。しかし、黒い影は動き始めた。亡霊のような静かな動きで近づいてくるその姿に、男は全身を震わせた。

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