HEAD/phones~ヘッド・フォン~
外が明るいせいか、建物の中は薄暗く感じた。しかし、扉が完全に閉まるとほとんど何も見えないくらい真っ暗になった。電気はついていない。誰もいないのだろうか?
何も見えないせいか、バランス感覚が失われていくようで足下がふらつく。それでもしばらく奥の様子を伺っていると徐々に慣れてきて、うっすらと中の様子が浮かんできた。といっても、部屋の中には何もないようだった。見えるのは外からと同じ、白い壁だけ。テーブルも椅子も何もなく、部屋の区切りもない。ただ端の奥に、上の階へと伸びる階段があるだけだ。まるで廃墟のようだが、微かに人の気配がする。しかも、生身の人間とは若干異なる気配が。

「けんたろー、ようすけー、まさるー…」

ノブオは小さな声で呼んでみた。しかし、返ってくる声はなく静かなままだ。

「いないのか?…それにしても暗ぇな。電気つかねぇのか?」

そう思い手探りでスイッチを探すと、手に何かが当たった。すると、それは横に動いたような気がした。スイッチではない。ノブオは目を凝らして壁を見ると、その形が次第に浮かび上がってきた。

「……ヘッドフォン?」

どうしてこんな所に?やはり誰かいるのか?
ノブオはそのヘッドフォンを壁から外した。触れた瞬間微かな温もりを感じたような気がしたが、気のせいだろうと思いノブオはそれを首にかけた。別に何をしようと思ったわけではない。ただ心細さが少し紛れるような気がしたのである。物でもいいから何かに触れていたかった。首にかけたヘッドフォンを握ると、ノブオは壁づたいに部屋の奥へと進んで行った。
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