HEAD/phones~ヘッド・フォン~
何度も部屋の様子を伺うが、人の姿はなく床の上には何もない。それを確認すると、階段の方へと歩いて行く。その間にまとわりついてくる闇で体が少しだけ重くなったような気がした。階段の前まで来ると、その先をなんとか見ようとしたが、さらに暗さは深さを増しており何も見えなかった。

「…行くしかないか」

ノブオは堅い階段をゆっくりと上がり始める。すべてが闇色で階段の本当の色も分からない。革靴を履いている為、一段上がる度に音が鳴った。ノブオは早まり始めた鼓動をその音に合わせようとゆっくり足を動かしたが、その意思に反して鼓動はその早さを増していく。
二階は思った以上に暗かった。目を凝らしても、もはや何も見えない。

---純粋な闇。

ノブオはそう思いながらポケットに手を突っ込み、小さなライターを取り出した。内臓が浮くような不快さを早く消す為、急いで火をつけようとするがなかなかつかない。イラついて舌打ちすると、それに反応するようにボッという音を立てて火がついた。そして、その明かりで部屋の中を照らす。ノブオは小さな炎の温もりで体が冷えている事に気付いた。そう言えば全身に鳥肌が立っている。炎に写し出された息が微かに白く見えた。夏だというのに空気は冷たく、周りに広がる闇がさらにそう感じさせていた。

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