HEAD/phones~ヘッド・フォン~

「まだ部屋があるみたい」

健太郎は近くにいるであろう陽助に囁く。すると、後ろの方から声が返ってきた。

「…怖いですねぇ」

その声は小さく震えていた。

「大丈夫?陽ちゃん」

「…ええ、大丈夫です」

振り向くとその声とともに陽助の姿が薄く現れた。
健太郎は外から中の様子を見えない目で窺ってみる。部屋の中は物音一つなく静かだ。さっきよりもさらに暗さが濃くなったような気がする。闇には限度がないのだろうか?健太郎はそんな事を思いながら部屋の中に一歩足を踏み入れた。ところがその瞬間、背筋に悪寒が走り動けなくなってしまった。部屋の中は酷く冷えていた。まるで冷凍庫の中に入り込んだかのような寒さである。健太郎は一瞬にして凍りついてしまったのだ。部屋は相変わらず不気味な程静寂に包まれているが、ふと闇の奥に人の気配を感じた。冷凍された体をなんとか動かし健太郎は身構えた。

「そこに…誰か、いるのか??」

健太郎は真っ暗な部屋に向かって静かに言う。その声は寒さのせいか震えていた。一時の間をおいて、健太郎の声に答えるように突然奥の方から光が現れこちらに向かって来た。

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