HEAD/phones~ヘッド・フォン~
 ノブオはライターの小さな明かりを頼りに、三階への階段を上がっていた。どこからともなく吹いてくる冷たい風が、ライターの弱い明かりをゆらゆらと揺らす。ノブオはライターを空いているもう片方の手でかばいながら進んだ。

「あいつら、どこだよ」

それに、ここはどこだ?
ノブオの中にはその疑問とともに好奇心めいた気持ちも次第に出てきていた。
ここには俺の知らない事が待ち構えていそう、な予感がするのだ。
ふと、先の暗闇に目を向けてみた。すると、視界の中で何かが動いたような気がした。ノブオは驚き身をすくめる。

「…なんか…いる…?」

周りには濃い闇が立ち込み、ライターの明かりでは確認する事が出来ない。

「…気のせいか?」

ノブオは息を殺して辺りの様子をしばらく窺ったが、何の音も気配も見当たらない。

「そ、そうだよな…気のせいだよな…」

そう思い気を取り直して再び階段を上がろうとした時、後ろから何かがノブオを追い越して階段を上がって行った。ノブオはあまりの驚きに体が硬直し、声も出なかった。通り越して行った何かは、そのまま暗闇に溶け込んでしまった。どこにいるのか分からない。前に広がる闇のどこかで、こちらの様子を窺っているのだろうか?そして、ノブオもまた向こうの様子を窺っていた。
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