HEAD/phones~ヘッド・フォン~
「健太郎」
その声で健太郎は顔を上げた。
「無理するな」
優が階段を上がった所から健太郎を見ていた。
「分かってる」
健太郎はそう口に出したが、何が「分かってる」のか自分でも分からなかった。それでも、優の後に続いて一段目へと足を上げた。その時、
「ガガガ……ガガ…ガ……」
どこからともなくかすれた音が聞こえてきた。静かな闇の中では小さな音でも響いて聞こえる。健太郎の少し混乱気味の頭にも、その音はよく聞こえた。
「何だ?」
健太郎はその音を聞きながら小さな声で探るように囁いた。そして、耳をすませてその音源を探る。
「もしかして陽助は何も言わない。
「陽ちゃん」
子どもをなだめるようにもう一度優しく言うが、やはり陽助は黙ったままうつむいて動かない。
「陽助、出せよ」
優が懐中電灯で陽助の顔を照らす。すると、陽助の姿が暗闇の中にはっきりと現れた。眩しそうに目をつぶり、妊婦のようにお腹に両手をあてている。
「陽助!」
優がキツく言うと陽助はようやく動いた。そして、渋々服の中から取り出すと前に差し出した。
「これ…」
健太郎はそれを受け取る。それは優が持っていたヘッドフォンだった。
「陽助が拾ったんだ」
確かに音はヘッドフォンから聞こえている。でも……。
「でも、これコードが…」
「ああ」
「じゃあ、この音は、どうやって……?!」