HEAD/phones~ヘッド・フォン~

 ノブオは少女の姿を追って階段を駆け上がった。暗闇の中に白い影がノブオを誘うように見え隠れして上階へと上がっていく。ノブオは見失わないように必死で追いかけた。ライターの炎が何度となく消えかかって足元が見えなくなっても、ノブオは構わず追いかけた。
どのくらい上へ来たのか分からない。ノブオの口からは白い息が激しく吐かれている。やがて、白い影は部屋の中へと入って行き、ノブオも遅れてその部屋の前に辿り着いた。
確かに少女はこの中へと消えていったのだが、その部屋のドアは閉まっている。まるで開けられた雰囲気がない。何もなかったように静まり返っている中で、ノブオの息遣いだけが荒々しく乱れていた。

「ハァ、ハァ、ハァ…ここ…ハァ、ハァ…だよな?」

ノブオは激しく高鳴る鼓動を落ち着かせ、荒い息を整えてからドアノブを握りそっと開ける。

部屋の左右両側の壁にはいくつかのろうそくが立てられており、部屋を淡く照らしていた。その奥に背を向けて少女は立っていた。それを見つけたノブオは何も言わずに部屋の中に入って行った。
幻想的な雰囲気がノブオを包み込む。それに漂う空気の感じも外とはどこか違って感じる。それは、

---誘惑の甘い匂い。

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