HEAD/phones~ヘッド・フォン~
「迷える哀れな者」
遠くで声がしたと思ったら、少女がゆっくり振り返った。
「お前は…誰なんだ?なんでこんな所にいるんだ?」
ノブオは少女の言葉を無視して質問する。
「あなたはどうしてここにいるの?」
少女の声は優しく穏やかだった。
「そんな事言われても……どうして俺は……ここにいるんだ?」
「あなたの疑問は、私の疑問」
「なんだって?」
「あなたの迷いは、私の迷い」
「どういう事だよ?」
「そのヘッドフォン…」
「え?これか?」
ノブオは首にかけていたヘッドフォンを手に取る。
「まだ見てないのね」
「何をだ?言ってる事が分かんねぇよ」
無意識のうちに壁から取り、首にかけていたが……。見る?これで見る?見るとはどういう事なんだ??
「こっちに」
ノブオの思考を遮るように少女は声を発した。その透き通るような薄い声にノブオは戸惑った。
すると、少女はそんなノブオの気持ちを察してか、「大丈夫」と小さく言った。
ノブオはその声に吸い寄せられるように少女の元へと歩いた。
一歩近づく毎にろうそくの炎が小さく揺れ、白い壁に不気味な影がうごめく。しかし、ノブオは少女の姿だけをじっと見つめ歩いた。
あそこへ行けば何かが変わりそうで少し不安だったが、それよりもその変化を早く知りたい気持ちが勝っていた。神秘的な空間に飲み込まれているのだ。