HEAD/phones~ヘッド・フォン~

すごくゆっくりと流れる空間の中、ノブオはようやく少女の前まで辿り着いた。

少女の顔は近くで見ると、なんともつかない表情をしていた。黒い髪は肩まで伸びており、前髪はちょうど目が隠れるくらいまでまっすぐ垂れて、その隙間からチラリと覗く瞳はどこか疲れたような印象を受ける。
背丈は最初に見た時よりも高く感じた。実際ノブオと同じくらいの高さで、白いワンピースから伸びている手足はワンピースの白と同系色でほっそりしており、全体的に透明がかって見える。年齢は分からないが、少女と言うよりは女性と言う方が合っているような気がした。

「どうぞ」

女はそう言うと、壁からコードを引き出した。それは下の階にあったものと同じようだ。白い壁から伸びたコードを手に持って、さらに女は言う。

「それをはめて、そこに横になって」

どうやらヘッドフォンをはめてベッドに横になれという事らしい。

「下にもあったけど、そのコードは何なんだ?」

「すぐに分かるわ」

女はノブオの持つヘッドフォンに手を伸ばす。ノブオは不思議に思いながらもすんなりと女に渡す。
カチャッ。
コードの先端についていた金属部分がヘッドフォンにはめられた。

「すべてが…分かるのか?」

「これはあなた自身への道。すべてはあなた自身で見る事から始まるのよ」

「俺自身?」

「少なくとも、迷いはなくなるでしょうね」

女はノブオにヘッドフォンを差し出した。

「分からない、分からないが…」

---面白そうだ。

< 69 / 113 >

この作品をシェア

pagetop