HEAD/phones~ヘッド・フォン~
「ちょ、ちょっと待て!ヘッドフォンから声が聞こえてきたのは、さっき俺も聞いた。つまり…このヘッドフォンは…意思を持っているって事なのか?」
健太郎は自分で何を言っているのか分からなくなってきた。
「それは厳密に言うと違う。それに、このヘッドフォンはおそらく未完成のものだろう」
「未完成?」
「誰かが何らかの目的で作っている…」
「つまり、このヘッドフォンは…」
「普通じゃない、って事だな」
健太郎は気が遠くなりそうだった。
何かが大きく狂い始めている。それはもしかしたら僕の中から漏れ出したもののせいかもしれない。黒くて冷たくて、目の前に広がる闇のような僕の心の中、そして。
「…記憶」
無意識のうちに言葉が出ていた。
「なんだ?」
「いや、別に……それよりなんで声が聞こえてくるんだ?」
「誰かの意思が詰まってる」
やはり狂ってる。健太郎は頭の中をかき回されたような気分がした。
「…これにか?」
「それじゃない。陽助が持ってるやつだ」
「だから、これは未完成なのか?」
「それは分からない」
「誰の意思かってのも分からないのか?」
「ああ」
「…それで、ヘッドフォンの声は何て?」
「女の元へ連れて行けって」
「女って?」
「分からない。その言葉を聞いた途端、目の前が真っ暗になって気付いたら屋上に倒れていた」
「そうか…」
結局、健太郎は答えに辿り着く事は出来なかった。むしろ謎が増えたようだった。
「でも、あのヘッドフォンが普通でない事は確かだ」
優はそう言うと、上へと続く階段の方へ歩いて行った。
健太郎は二つに別れたヘッドフォンを見ていた。しかし、それが何を意味するのか、健太郎も優も気付いていなかった。