HEAD/phones~ヘッド・フォン~
今までいい事なんて何もなかった。もちろん、それなりに喜んだり笑ったり楽しい事もあったけど…それで満足していただろうか?
今まで生きてきた中で一番の喜びは何だ?楽しみは何だ?大事なものは何だ?人間なんていつかは死ぬんだ。
でも、俺は自分の生き方に……満足しているか?今までの世界に……満足しているか?
これはもしかして、俺に…俺だけに与えられたチャンスなんじゃないか?そうだ、俺は特別な存在だったんだよ!いや、これから特別な存在として生まれ変わるんだ!
「どうやら、決まったみたいね」
女はノブオの手をそっと握った。触れた女の手は冷たく冷えていたが、その冷たさも感じないくらいノブオの体は興奮で満たされていた。
「…ほんとなんだな?」
ノブオは自分に言い聞かせるように言う。
「それはあなたが決める事よ。でも…あなたは、選ばれたの」
そう言って女は優しくノブオを抱きしめた。その顔はろうそくの明かりのせいか不気味に歪んでいた。