HEAD/phones~ヘッド・フォン~
ノブオが目の前を通り過ぎてもまだ、陽助は階段の陰に身を潜めていた。健太郎と優から隠れた時と同じように。
陽助の目は虚ろでその瞳には黒い闇だけが写っている。
しばらくしてようやく立ち上がった陽助は、上階へと足を進めた。一歩上がる毎にヘッドフォンが頭にめり込んでくる。
『あの女は悪魔だ。ここから出してはいけない。出てはいけない』
その声が陽助の体を支配していた。もはや陽助の意思はどこにもなかった。
階段を上がると、ある部屋に辿り着いた。ドアは開いているが、部屋の中は真っ暗で何も見えない。陽助の額に汗が滲み出す。そして、意を決して部屋の中へ足を踏み入れようとした時、突然部屋の両脇にろうそくの明かりが灯った。
「どうぞ」
部屋の奥に立っている女が促す。
陽助は警戒するようにゆっくりと部屋の中へ入っていく。
「あなたの方から来るなんて」
女の声は異常に低かった。
『悪魔…』
陽助の目は虚ろながらにしっかりと女の姿を捉えていた。
「待ってたのよ」
そう言って女は気味の悪い引き笑いをすると、手に持っていたヘッドフォンを頭にはめた。すると、女の目から黒い涙が流れ出してきた。
「おかえり」