HEAD/phones~ヘッド・フォン~
健太郎の目から涙が溢れ出ていた。熱い涙が頬を伝う。
「いいからヤろうぜ」
一人が健太郎の顔目掛けて殴ってきた。健太郎の顔が歪む。口の中で鉄の味がした。しかし、嫌な感じはしなかった。むしろ力が湧いてくるようだった。
「やれよ!」
健太郎は叫んでいた。
「好きなだけやればいい」
そう言って前に一歩出る。
「なんだ…こいつ」
「マジでおかしくなったんじゃ…」
健太郎はまた一歩前へ出た。
「変な奴」
「俺…今日はいいや」
「俺も」
そう言って一人二人と教室を出ていく。そして、それにつられてゾロゾロと教室を出ていく不良グループ。
自分を苦しめていたものは自分自身だった。その事に気づいていなかったわけじゃない。ただ、考えるのが、思い出すのがつらかったんだ。
僕は自分自身からずっと逃げていた。気づかないふりをずっとしていたんだ。
健太郎は握り締めていた拳を解いた。
「…でも、どうして?」
健太郎は一人残っているリーダーに尋ねた。
「どうして、僕が?」
それは長年考え続けてきた思いだった。
「僕は何をしたんだ?」
「……あいつだよ」
リーダーは教室の戸の方を指差す。
「あいつがさ、お前が俺らの事バカにしてるって」
健太郎は戸の方を見た。そこには一人の少年がいて、隠れるようにして教室の中を覗いていた。健太郎はその顔に見覚えがあった。遠い日の記憶を辿っていく。