HEAD/phones~ヘッド・フォン~

健太郎の目から涙が溢れ出ていた。熱い涙が頬を伝う。

「いいからヤろうぜ」

一人が健太郎の顔目掛けて殴ってきた。健太郎の顔が歪む。口の中で鉄の味がした。しかし、嫌な感じはしなかった。むしろ力が湧いてくるようだった。

「やれよ!」

健太郎は叫んでいた。

「好きなだけやればいい」

そう言って前に一歩出る。

「なんだ…こいつ」

「マジでおかしくなったんじゃ…」

健太郎はまた一歩前へ出た。

「変な奴」

「俺…今日はいいや」

「俺も」

そう言って一人二人と教室を出ていく。そして、それにつられてゾロゾロと教室を出ていく不良グループ。

自分を苦しめていたものは自分自身だった。その事に気づいていなかったわけじゃない。ただ、考えるのが、思い出すのがつらかったんだ。
僕は自分自身からずっと逃げていた。気づかないふりをずっとしていたんだ。

健太郎は握り締めていた拳を解いた。

「…でも、どうして?」

健太郎は一人残っているリーダーに尋ねた。

「どうして、僕が?」

それは長年考え続けてきた思いだった。

「僕は何をしたんだ?」

「……あいつだよ」

リーダーは教室の戸の方を指差す。

「あいつがさ、お前が俺らの事バカにしてるって」

健太郎は戸の方を見た。そこには一人の少年がいて、隠れるようにして教室の中を覗いていた。健太郎はその顔に見覚えがあった。遠い日の記憶を辿っていく。

< 97 / 113 >

この作品をシェア

pagetop