HEAD/phones~ヘッド・フォン~
「ノブオ…女って、誰だ?」
優は血が流れ出てくる傷口を手で押さえながら尋ねる。
「お前には関係ない」
ノブオはナイフについた血を振り落とした。
「残念だけど、選ばれたのは俺なんだよ、俺」
「選ばれた?」
優は考えるようにつぶやく。
「そうさ、あのヘッドフォンさえ手に入れば」
「ヘッドフォン…」
優は同じようにつぶやく。
ヘッドフォン、男の声、女、二つに別れたヘッドフォン、ノブオ、女、選ばれた……。
優の頭の中を謎の言葉達が駆け巡る。そして、ヘッドフォンから聞こえてきたあの声。
『俺をあの女の元へ連れて行ってくれ。あの女は人の世界に入り込もうとしている。あの女はすべてを呪っている。人はあの女を受け入れる事は出来ないだろう。そうなれば、人の世界は壊れてしまう。あそこは、あの世界は……闇の世界なんだ』
優の中で何かが動き始めた。そして、徐々に謎の言葉は繋がり始める。
「…だから」
そう言うとノブオは再び優に襲いかかった。
優は思考を中断してナイフを避けると、ノブオの横腹に渾身の蹴りを入れた。ノブオは横に吹っ飛び壁に頭をぶつけそのまま床に倒れた。
「しっかりしろ!目を覚ませノブオ!」
優が腕の痛みを堪えて怒鳴る。
「…ううぅ…うう…」
ノブオは今の一撃が効いたのか、言葉が出ないようだ。
「あのヘッドフォンは…もしかして」
優はノブオに歩み寄る。
「ノブオ…」
哀れんだ声でつぶやき横に落ちているナイフを取り上げようとすると、優の腹に激痛が走った。見るとノブオが隠し持ったもう一つのナイフを突き刺していた。優はうめき声を上げながらその場に倒れた。
ノブオはゆっくりと立ち上がり、優のもがき苦しむ姿を狂気の目で上から見下ろす。やがて動かなくなった優にノブオは言葉を吐き捨てた。
「お前は死なねぇよ。元々死んでんだから」