華麗なる人生に暗雲があったりなかったり



 水野は俺の偽彼女という立場になったから、仁のことを話せる人間は俺しかいなくなった。


 本当は女友達である上原や瀬戸には話すつもりだったのだろう。


 だが、それもできなくなった。


 因みに、からかいに対しての返答もこの頃には、そんなことないよ、に変わっていた。


 とにかく、初めて仁のことを聞いてから。


 やれ、博物館に行っただの。


 居酒屋で仁くんが煙草吸おうとしただの。


 お盆に一緒に帰れるだの。


 昔の仁との思い出やら。


 散々、仁の話を聞かされた。


 その上、仁の実験体として毒見役まで。


 まぁ。


 料理は絶品だったが。


 普通、男を部屋にあげるか?


 と、意識されていないことを不愉快に思いながらも、信頼されているからだと言い聞かせた。


 そして、この頃には水野がどれだけ仁のことが好きなのかがわかった。



「仁くんがね!」



「仁くんはね!」



 もう、仁、仁、仁、仁…………


 何でも仁だ。


 もちろん、仁のことばかり話しているわけじゃない。


 だが、水野の日々の生活は仁のため。


 それがわかった。


 面白くない。




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