華麗なる人生に暗雲があったりなかったり
「お前に関係ない。美玖。とっとと出て、姉貴のところにでも行け」
俺の態度が気に食わなかったのか、それとも美玖の嘘涙に要らぬ正義感が発動したのか。
水野は美玖の腕を掴む俺の手首を思いっきり掴んだ。
「榊田君、乱暴はやめて。美玖ちゃんは私が招待したの。嫌なら榊田君が出ていって」
美玖の腕を離すのと同時に、水野も手を離した。
その隙に、美玖は水野の背後に回った。
こいつ。
美玖を睨みつけたが、水野と睨み合う形になる。
「妹にお兄ちゃんが意地悪するなんてダメでしょ?夕食の材料は多く買ったから、おなかいっぱい食べれるわ」
俺が、自分の食い扶持がなくなるから、追い出そうと思っているらしい。
普段、こいつが俺のことをどう見ているのかが良くわかった。
食い意地が張ってて悪かったな!
鈍感、勘違い女め。
「小春ちゃんの言う通りだよ。腕が赤くなってる。最低だわ」
やっぱり引きずり出すかと、足を踏み出したが水野に阻まれた。
「榊田君。出て行く?それとも美玖ちゃんに優しくする?」
俺は降参のため息を吐いた。
「勝手にしろ」
そう吐き捨てて、部屋に戻った。
「お前、どういうつもりだ?」
二人きりの部屋でしばしの沈黙の後、口火を切った。
「別に。お兄ちゃんの片思いの相手に興味があったの」
水野が夕食の仕度をしている中、冷ややかな空気が部屋を覆っていた。
「猫かぶって、水野を味方につけて、何企んでる?」
「猫かぶりはお兄ちゃんでしょ?」
くすくす笑い出す。
その笑い方は歳には似合わないほど妖艶で、嫌な感じがする。
「小春ちゃんには、ずいぶん態度が違うって聞いてたけど本当だね。大人しくて、お兄ちゃんじゃないみたい」
広也から姉貴、そして美玖に伝わったことは確実だ。