華麗なる人生に暗雲があったりなかったり



 夕飯を食べながら、会話をしているうちに、だいたい状況がわかった。


 姉貴が水野の写真を美玖に送り、それを元に美玖は水野の学部を探し回って見つけたそうだ。


 学部がわかったところで、大勢の中から水野を見つけるとは恐るべき執念。



「うちのお父さん、すごく厳格な人でね。嫌になって飛び出してきたの」



 そして、家出をこれ幸いと水野に会いに来たこともわかった。


 親父と美玖の喧嘩の最大の犠牲者は俺だということだ。



「だから、榊田君も美玖ちゃんも、しっかりしてるんだね」



 美玖が一人でべらべら話し、水野が相槌を打ち、俺は黙々と飯を食う。



「全然しっかりなんかしてないよ~お兄ちゃんなんて、お父さんと衝突してばっかりで家には寝に戻るだけだったし。お父さんはお兄ちゃんみたいな、いい加減な人間が嫌いなの」



 美玖は肩をすくめ、おどけて見せた。



「お前、最悪だな。内面の汚さが、口から溢れ出てる」



 俺の蔑みに、美玖は水野に顔を向ける。



「いつもこんな態度なの。だからお父さんだけでなく、私とも仲が良くないの」



「でも、榊田君に会いに来たんでしょ?それは優しいところもあるからじゃないの?」



 さすがは、性善説を唱える水野だ。



「お兄ちゃんは私に対して無関心だし、冷たいだけだよ。だから、お兄ちゃん目当てじゃなくて、小春ちゃんに興味があって来たの」



「だから、榊田君じゃなくて、私を探してたのか。でも、どうして私に興味持ってくれたの?」



「小春ちゃんに対しては優しいって言うから、どんな子なのかなってね」



 ちらりとだけ、俺を見る。


 俺の顔なんて、できれば見たくないということが伝わってくる。


 それは俺も同じだ。




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