華麗なる人生に暗雲があったりなかったり



「お前も、嫌ならもっとはっきり断れ。俺の手を煩わさせるな。鬱陶しい」



「彼氏ぶって、偉そうにしないでもらえます?」



 橘が水野を庇うように言ってきた。



「橘~!榊田は彼氏なんだから、彼氏ぶるに決まってんだろ?」



 へろへろの酔っ払いが、呆れたように言う。



「まさか。榊田さんが水野さんの彼氏なわけないじゃないですか」



 橘はわざと全員に聞こえるように大きな声で言った。


 嫌な予感がする。


 みんなが橘に注目し出す。



「どういうことだよ?別れたのか?」



 俺に向けられた質問なのに、すぐさま口を出したのは橘。



「別れてますよね?そうじゃなかったら浮気ですよ。この間見たんです。ホテルから女の人と出てくるところ」



 酒が一気に身体中に回る感覚に襲われ、ドクン、と心臓が嫌な音を立てる。


 身体が熱くなって、握ってもいない手から汗が噴き出す。



「おい。そういう不用意な発言はやめろ。橘」



 広也が橘の肩に手をぽんっと置いた。



「本当ですよ。ほら、これ榊田さんですよね」


 そう言って、水野に携帯を見せる。


 水野は画面を見て、大きく目を見開き、その丸っこい目を俺へと向けた。


 その表情は信じられない、とでも言っているかのようで。


 俺は金縛りにあったように目を逸らせなかった。


 息を吸うことさえ忘れてしまったかのように、呼吸ができない。




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