華麗なる人生に暗雲があったりなかったり
「私ね、高校時代、榊田君のことが嫌いだったの。話したこともないのに何でかわかる?そういう視線を人に向ける姿を何度も見てたから。榊田君のファンが友達に多くて良く榊田君が助っ人で出てた試合とか見に行ってたんだ。知ってた?」
「知らないな。お前が俺を嫌っていることもお前を高校時代に見ていたことも」
実を言えば、瀬戸のことは知っていた。
俺の高校で、瀬戸の通う女子高はレベルが高いと有名だったし、瀬戸の容姿はまぁ悪くないから話題になったことも幾度もあった。
だが、それは何となく記憶にある程度だ。
「どうでもよさそうね。でもね、今の榊田君は私すごい好きなの」
「そりゃどうも。なんなら付き合うか?」
瀬戸は驚いて俺を見上げた。
水野とどことなく似ている。
瀬戸のほうがずっと綺麗なのに大人なのに趣味が合うのに、それなのに、俺は今まで何故水野を追いかけていたのか。
灯台下暗しだったか?
驚いた表情の瀬戸を眺めながらそんなことを思っていると瀬戸は、ぷっ、と吹き出し息を殺すように笑った。
「自棄を起こさないで。私と付き合ったら本当におしまいよ?もう小春ちゃんとは絶対にあり得なくなっちゃう。友達の彼氏を奪うなんて小春ちゃんには無理よ」
くすくす笑う瀬戸に、頭が痛くなるほど強く眉間を抑えた。
「しつこい。俺はあいつのことなんて……」
「榊田君のほうがしつこい。小春ちゃんのことを好きで仕方ないって顔に大きく書かれてある」
「そうやって穿った見方をお前たちはするから、本当に不愉快だ」
「そう。なら、お断りは一応入れておくわ。私は小春ちゃんが好きな、しつこく追いかけている榊田君が好きだから」
「俺もてめぇーみたいな女ごめんだ。ウザい」
「今の榊田君のほうがウジウジしててウザい。気が合って何より」
俺が怒っていることがわかっているのに、瀬戸はゆったりと笑いながら肩をすくめる。
そして、ひらひら、っと手を振り、瀬戸は図書館に入っていった。
女嫌いになりそうだ。