華麗なる人生に暗雲があったりなかったり
おかしい。
おかしい。
とにかく、おかしい。
何がおかしいのかわからないが。
いつもと様子が違う。
いつも通りなはずなのに。
違和感を感じる。
二月の初旬頃から水野がおかしい。
どこがおかしいか最初はさっぱりだった。
だから、気のせいかとも思ったが。
道場に来ない。
これで確信が持てた。
仁と何かあったに違いない。
良いことか?
悪いことか?
それが水野の表情から読み取れない。
二日、水野を観察した。
目が死んでいた。
死んだ魚より死んだ目だ。
何も見ていない。
何も映していない。
恐ろしいほど、透明で、風景を見るような目で俺を見る。
何の感情も映し出さない。
これは悪いことだ。
仁と痴話喧嘩で人間とは思えない顔にまで落ちた水野だ。
仲直りできなかったのかもしれない。
また喧嘩して、今度は死人になったのだろうと予測を立てた。
俺にはやかましく、喧嘩を吹っかけるくせに、仁となるとこれだ。
こっちが死人を演じたくなる。
仁への執着はわかっている。
こいつにとっては、死に等しいのだろう。
両思いなのに、なかなか二人がくっ付かないのは俺の日ごろの行ないが良いからだろうか?
そんなことを口に出したら、知り合い全員が白い目で見るに違いない。
ただ、今回は幸運とは思えなかった。
時が経てば立ち直るかと思ったが、日が経つにつれ、ひどくなる。
こんな水野は見たくなかった。
ただ息をしているだけの水野なんて見たくなかった。
これなら、仁のことを嬉しそうにする水野を見るほうがマシだ。
だからと言って、仁と面識があるはずもなく、仲直りの仲裁はできない。
それに俺としては、できれば仲裁せずにいつもの水野に戻って欲しかった。