華麗なる人生に暗雲があったりなかったり
その後も、水野は淡々と過ごした。
いつも通りの生活を表向きしている。
俺とも普通に話す。
何も映さない目で。
ただ、俺が水野の目をじっと見つめると。
目を逸らした。
悟られたくないことがわかった。
何も聞かれたくないことが。
それがわかったから、ほっといた。
旅行までに自分で立ち直って、旅行は楽しんで欲しいと思ったが、結局水野は変わらなかった。
嫌な役回りだが仕方がない。
旅行の前日、二人で話をした。
「榊田君と話したい気分じゃないの」
俺を見ようともしない。
何で、仁のせいで俺まで水野に嫌煙されないといけないのか。
俺が、水野を死人から這い上がらせたって、仁に会いに行くだけだ。
それでも、今の水野は嫌だった。
こいつは笑っているほうが良い。
嘘笑いは下手くそで見るに耐えない。
唾を吐きかけたくなる。
水野に笑顔を取り戻させるのは仁だ。
仁しかいない。
俺には無理だ。
だけど、人間に戻してやるくらいなら俺でもできる。
何にも映さない目。
俺さえも、風景の一部としてしか見ていない。
その目を変えることは俺にでもできる。