華麗なる人生に暗雲があったりなかったり




「瀬戸。忠告してやる」



「何?」



 瀬戸は微笑を浮かべたまま、目を細めた。



「嫌味な女はモテないぞ」



「嫌味じゃないわ。容姿抜きにしても、すぐに陥落させるくらい女の子の扱いが上手ね、って褒めたのよ」



「女の扱い?そんなこと考えたこともない」



 瀬戸は両手を上げ、大げさに驚いて見せた。



「さすがは榊田君。天性の才かしら?」



 天性の才があるなら、水野とすでに付き合っているに違いない。



「馬鹿馬鹿しい。何が言いたいんだ?」



「このままじゃ、ずっと『優しい榊田君』で終わるよ、って言いたい」



 口調はとぼけているのに、目だけ至って真面目だ。



「そんなことは、わかってる」



 ソファーにずるずると沈み込み、安っぽいシャンデリアを眺める。



「小春ちゃんには榊田君のさりげなく作戦は通用しないみたいだし」



「そんな作戦立ててねぇ」



「そうだった、無意識に特別扱いしちゃうんだったね」



「…………」



「ちゃんと気持ちを伝えたほうが良いよ。そうしないと何も変わらないよ。これは忠告のお返し」



 悪戯っぽく笑い、瀬戸は席を立った。


 どいつもこいつも余計なお世話だ。


 水野のおせっかい病が蔓延している。
 

 由々しき事態だ。


 瀬戸は知らない。


 水野の中での仁の存在の大きさを。


 気持ちを伝えたところで、どうにもならない。


 迷惑がられるのがオチだ。


 水野には仁がいる。


 二人が手を取り合う日が来れば。


 俺はずっと水野の中で『優しい榊田君』なのだろう。











< 47 / 207 >

この作品をシェア

pagetop