華麗なる人生に暗雲があったりなかったり
「小春もやるわね。俊君に片思いさせるなんて。さすがは私の娘!」
おばさんはピューと口笛を鳴らすマネをした。
「水野にかけられた最大の迷惑はそれかもしれませんね」
よりにもよって、こんな厄介な女に惚れるなんて。
女なんて溢れかえるほどいるのに。
「仁君の壁は厚いわよ」
もう、仁は結婚するんだ。
壁は壊される。
低くなるどころか、なくなるのだ。
おばさんは仁が結婚することを知らないんだ。
仁と面識すらない俺が話すことではないから何も言わなかった。
実際は知っていて俺と水野を騙していたのがわかったのは数日後。
おばさんはかなり性質が悪い。
水野の実家を出る頃には、絶対に敵にまわしてはいけない相手だと俺の中でインプットされた。
そんなこんなしているうちに水野の家に着いた。
なるほど、駅のところ以上に、かなりのど田舎。
携帯も数年前までは電波が安定しなくて使えなかったと言っていただけのことはある。
一階は障子と掘りごたつという、和式住まいだった。
俺は洋食より和食、洋室より和室の人間だから気に入った。
俺が泊まる部屋も畳で喜んだ。
ただ、八畳間に布団が一つというのは物悲しいが。
そう思ったのが間違いのはじまりだった。
きっと、この時、そう思ったのがいけなかったのだ。
それが厄病神を呼んだんだ。
厄病神の仁を。