華麗なる人生に暗雲があったりなかったり
そして、さっさと歩き出した。
「おい。待て。話は終わってない」
俺は水野に声をかけた。
「なら、歩きながらにしようよ。道端に立ってたら迷惑よ」
「何なんだ。そのあっさりした断り方は」
「だって、私が『はい』って言うなんて思ってないでしょ?」
水野はすたすた歩く。
いつもより早い。
「仁のことは決着がついたんだよな?なら、別に問題ないだろう?」
「もうこの話はやめよう」
「断る。お前が俺と付き合ってくれるならやめてやる」
断られるのなんて、最初からわかっていた。
だけど、こうもあっさり、しかもどうでもよさそうに切り捨てられるのは予想外だ。
「榊田君。困らせないで。お願いだから」
水野は眉をよせて俺を見た。
その目は潤んで揺らいでいた。
混乱しているようだった。
「困らせるつもりはなかった。けど、お前は言わないと一生気づかないだろ」
近年まれに見る鈍感女だから。
「なら、一生知らないままでいたかった」
そっけなく水野は言う。
「俺はお前と付き合いたい」
だから、腹を括った。
水野を手に入れるためなら、何でもすると。
「周りは私たちが付き合ってると思ってる。それで満足してくれない?偽彼女のままでいるわ」
わざと怒らせるような言い方をしてる。
俺が怒って、立ち去るのを期待して。
その手には乗らない。
「お前が頷くとは思っていなかった。俺にチャンスをくれ」
「榊田君を恋愛対象として見たことないの。だから無理」
間髪入れず切り捨てられる。
「俺だけじゃない。仁以外全ての人間だろ?だから、これから俺だけで良いから男としてみてくれ」
俺以外は今まで通りで構わない。
ライバルになりえるやつはいないから、どっちでも良いが。
「それさえ叶えばとりあえず構わない。今まで通りで」
水野は上目遣いで俺を見た。
「本当に?今まで通りで良いの?私の話聞いてくれる?」
「何でも聞く。というか、何でも俺に報告しろ」
そう言うと、水野はほっとしたように笑った。
「良かった。榊田君と今まで通りに付き合えなくなっちゃうかと思った」
とりあえずは、成功したということになるのだろうか?
意識してくれるらしいから成功だろう。
これで、やりやすくなる。
何だか微妙な俺の告白はこうして終わりを告げた。