ピュア・ラブ
4
お正月休みの間、橘君と少しの時間でも会い、話しをした。
話しの中心はもちろん高校時代のことだった。そっぽを向いて感心を示さなかった私は、橘君の話しで高校はおもしろかったのだと知った。
彼はしきりに、正月に女の人の家で寝てしまったことを反省していた。
でも、「なんだか落ち着く」と言ってくれたことは、嬉しかった。
もっぱら連絡を寄越したのは橘君だ。電話の度にドキドキした。メールを見れば何回も読み直した。
でも会っているときは常に気を引き締めた。この人の傍にいるのは私じゃない。ただの同級生なのだ。浮かれてはいけない。
人に対して免疫のない私は、勘違いを起こす。だから、橘君と会う時には、鏡に向かって「浮かれちゃダメ、勘違いをしてはダメ」と言い聞かせた。
何故、つないだ手を離さなかったのだろう。
何故、抱きしめられた腕を振りほどかなかったのだろう。
心がもやもやしているのがこの答えなのかもしれないが、まだそれが何かわからない。
一月も終わりになったころ、母親がまた来た。
「ごめんねえ、お正月はなにかと用入りでね」
言い訳がましい。使ってないならそう言えばいい。今さら言い訳は通用しないのだ。
「いち、いちでいいの」
始まった、「いち」だ。この人が今着ている品のない派手な服も、きっと私のお金から出ているのだろう。
橘君と浮かれた日を過ごしてしまった私には、ちょうどいいタイミングで現実に戻ることができたようだ。
滅多にないこの人への感謝だ。
玄関に立たせて置き、財布を取りに行く。
「ねえ、茜。あの獣医さん? 良い人見つけたじゃないの」
私は、耳を疑った。
獣医と聞き、知っている人は一人しかいない。
「獣医じゃあ、お金もってるだろうし、生活には困らないわよ。お父さんもお母さんも助かるわ」
「もう一度言って見なさい」
「く、くるし……」
「何処で、見たの?」
「は、離して」
私は、怒りのあまり、母親の胸倉をつかんでいたらしい。はっと気が付き、その手を離した。
「あんたんちから出てくるのが見えて、後をついて行ったのよ。白衣を着ているから医者だと思って。病院に入って行く前に声をかけたのよ、それだけよ」
「いい加減にして!! あの人は同級生なだけ、何も関係ないわ!!」
「あ、茜?」
私は、腹の底から大きな声を出して、怒りを露わにした。
「何を言ったの! 言いなさい!」
「稼ぎがいいんでしょう? 茜に不自由はさせないで、いい関係を続けましょう。って言っただけよ、何がいけないの? 獣医なら稼げるし、お母さんたちの老後の心配もないじゃない。お父さんみたいな運転手じゃどうしようもないわ。それに引き替え医者はいいわ」
「橘君はなんて言ったの」
「分かってますって、感じのいい青年だったわ、お母さんは賛成よ」
「何が賛成よ!! いい? 金輪際彼には近寄らないで。私は一生結婚をする気はない。あの人はただの同級生、何かしたらただじゃおかないわ。あんたなんか殺したっていい」
「茜……」
「出て行って!!」
話しの中心はもちろん高校時代のことだった。そっぽを向いて感心を示さなかった私は、橘君の話しで高校はおもしろかったのだと知った。
彼はしきりに、正月に女の人の家で寝てしまったことを反省していた。
でも、「なんだか落ち着く」と言ってくれたことは、嬉しかった。
もっぱら連絡を寄越したのは橘君だ。電話の度にドキドキした。メールを見れば何回も読み直した。
でも会っているときは常に気を引き締めた。この人の傍にいるのは私じゃない。ただの同級生なのだ。浮かれてはいけない。
人に対して免疫のない私は、勘違いを起こす。だから、橘君と会う時には、鏡に向かって「浮かれちゃダメ、勘違いをしてはダメ」と言い聞かせた。
何故、つないだ手を離さなかったのだろう。
何故、抱きしめられた腕を振りほどかなかったのだろう。
心がもやもやしているのがこの答えなのかもしれないが、まだそれが何かわからない。
一月も終わりになったころ、母親がまた来た。
「ごめんねえ、お正月はなにかと用入りでね」
言い訳がましい。使ってないならそう言えばいい。今さら言い訳は通用しないのだ。
「いち、いちでいいの」
始まった、「いち」だ。この人が今着ている品のない派手な服も、きっと私のお金から出ているのだろう。
橘君と浮かれた日を過ごしてしまった私には、ちょうどいいタイミングで現実に戻ることができたようだ。
滅多にないこの人への感謝だ。
玄関に立たせて置き、財布を取りに行く。
「ねえ、茜。あの獣医さん? 良い人見つけたじゃないの」
私は、耳を疑った。
獣医と聞き、知っている人は一人しかいない。
「獣医じゃあ、お金もってるだろうし、生活には困らないわよ。お父さんもお母さんも助かるわ」
「もう一度言って見なさい」
「く、くるし……」
「何処で、見たの?」
「は、離して」
私は、怒りのあまり、母親の胸倉をつかんでいたらしい。はっと気が付き、その手を離した。
「あんたんちから出てくるのが見えて、後をついて行ったのよ。白衣を着ているから医者だと思って。病院に入って行く前に声をかけたのよ、それだけよ」
「いい加減にして!! あの人は同級生なだけ、何も関係ないわ!!」
「あ、茜?」
私は、腹の底から大きな声を出して、怒りを露わにした。
「何を言ったの! 言いなさい!」
「稼ぎがいいんでしょう? 茜に不自由はさせないで、いい関係を続けましょう。って言っただけよ、何がいけないの? 獣医なら稼げるし、お母さんたちの老後の心配もないじゃない。お父さんみたいな運転手じゃどうしようもないわ。それに引き替え医者はいいわ」
「橘君はなんて言ったの」
「分かってますって、感じのいい青年だったわ、お母さんは賛成よ」
「何が賛成よ!! いい? 金輪際彼には近寄らないで。私は一生結婚をする気はない。あの人はただの同級生、何かしたらただじゃおかないわ。あんたなんか殺したっていい」
「茜……」
「出て行って!!」