ピュア・ラブ
あの雨の日からもう何日も経った。
私は、引っ越しする勇気もなかった。それなのに、橘君を拒否し続けていた。
橘君もそれは分かっていたようで、私をそっとして置いてくれている。
川沿いに植えられている桜の木が、つぼみになり芽吹き始めていた。
どんどん温かくいい季節になるのに、私の心だけは吹雪いていた。
母親は、足を酷くくじいたらしく、父親がそれを報告しに来た。
「慰謝料でも請求するつもり?」
もう、私には、情けをかける感情は残していなかった。まだ、お金を渡していればと思っていたけれど、怪我と聞いても鼻で笑うくらいの気持ちしかなかった。
「何処にも出かけられなくてヒステリックになってるぞ」
「だから何?」
「お母さんなんだから、少しは心配したらどうだ?」
「は? ちゃんちゃらおかしいわ! お母さん? そんな名称で呼ぶわけがないでしょう? 母親らしいことは何一つしないのに。子供だと思っているの? 私が熱を出したときどうしてた? 風呂に入れば下がるとか言って、無理やり湯船に浸からせたわよね? 薬も飲ませず、病院にも連れて行かず! 外で遊ぶことはしなかった。どうしてだか分かる? あんた達が、病院に連れて行ってくれないことを子供ながらに分かっているから、怪我をするような体育や遊びをしなかったのよ! 賢い子でよかったわね!」
私は、金も渡さず、母親にしたように今度は父親を押し出した。
体格のいい父親は転びこそしなかったが、よろけていた。
でも、不思議なことに、手を挙げる素振りもなく、追い出しても静かに帰って行った。
私は、両親に対しても会話などしなかった。
こんなに憎しみを露わにしたところを初めてみたのだろう。それで、何も言えなかっただけだ。
もっと言いたいことはある。だけど、ちょっとやそっとの時間じゃ終れない。
橘君と母親の一件があって以来、私は、両親に渡してきた金を計算し始めた。
小学校から高校までの教育費は、平均を取った。特に高校は制服代と、教科書代だけだった。社会人になってからの金の流れ。それを計算すると、もう既に世の中で「親孝行」をしました。と言ってもいい程の金額になっていた。
絶縁をするときがきた。
それは、突然するものではなく、じわじわと飼い殺しのようにする。私は鬼だ。どうせ地獄に行くことは決まっている。もう何も怖くない。悶え苦しみながら最後の死期をむかえるだろう。それも覚悟の上だ。
「モモ? どうかしたの?」
昨日もそうだったが、頻繁にトイレに行く。昨日、ゆるいウンチが出たが、今は殆ど水のような粘膜だけになっている。
ご飯を多く上げ過ぎても下痢になると聞いていた。昨日の夜から、少な目のご飯をあげていたけれど、どうもそうじゃないようだ。
もしかしたら、私のストレスやイライラが伝わってしまったのだろうか。
時計をみると、午後の診察が始まったばかりだった。急いで、カゴを用意して、自分の支度もする。
「モモ、すぐに楽になるからね」
お尻が痛いのか、痒いのか頻繁に舐めている。
財布の中身を確認して、バッグに入れる。
モモをカゴに入れると、急いで病院に向かった。
私は、引っ越しする勇気もなかった。それなのに、橘君を拒否し続けていた。
橘君もそれは分かっていたようで、私をそっとして置いてくれている。
川沿いに植えられている桜の木が、つぼみになり芽吹き始めていた。
どんどん温かくいい季節になるのに、私の心だけは吹雪いていた。
母親は、足を酷くくじいたらしく、父親がそれを報告しに来た。
「慰謝料でも請求するつもり?」
もう、私には、情けをかける感情は残していなかった。まだ、お金を渡していればと思っていたけれど、怪我と聞いても鼻で笑うくらいの気持ちしかなかった。
「何処にも出かけられなくてヒステリックになってるぞ」
「だから何?」
「お母さんなんだから、少しは心配したらどうだ?」
「は? ちゃんちゃらおかしいわ! お母さん? そんな名称で呼ぶわけがないでしょう? 母親らしいことは何一つしないのに。子供だと思っているの? 私が熱を出したときどうしてた? 風呂に入れば下がるとか言って、無理やり湯船に浸からせたわよね? 薬も飲ませず、病院にも連れて行かず! 外で遊ぶことはしなかった。どうしてだか分かる? あんた達が、病院に連れて行ってくれないことを子供ながらに分かっているから、怪我をするような体育や遊びをしなかったのよ! 賢い子でよかったわね!」
私は、金も渡さず、母親にしたように今度は父親を押し出した。
体格のいい父親は転びこそしなかったが、よろけていた。
でも、不思議なことに、手を挙げる素振りもなく、追い出しても静かに帰って行った。
私は、両親に対しても会話などしなかった。
こんなに憎しみを露わにしたところを初めてみたのだろう。それで、何も言えなかっただけだ。
もっと言いたいことはある。だけど、ちょっとやそっとの時間じゃ終れない。
橘君と母親の一件があって以来、私は、両親に渡してきた金を計算し始めた。
小学校から高校までの教育費は、平均を取った。特に高校は制服代と、教科書代だけだった。社会人になってからの金の流れ。それを計算すると、もう既に世の中で「親孝行」をしました。と言ってもいい程の金額になっていた。
絶縁をするときがきた。
それは、突然するものではなく、じわじわと飼い殺しのようにする。私は鬼だ。どうせ地獄に行くことは決まっている。もう何も怖くない。悶え苦しみながら最後の死期をむかえるだろう。それも覚悟の上だ。
「モモ? どうかしたの?」
昨日もそうだったが、頻繁にトイレに行く。昨日、ゆるいウンチが出たが、今は殆ど水のような粘膜だけになっている。
ご飯を多く上げ過ぎても下痢になると聞いていた。昨日の夜から、少な目のご飯をあげていたけれど、どうもそうじゃないようだ。
もしかしたら、私のストレスやイライラが伝わってしまったのだろうか。
時計をみると、午後の診察が始まったばかりだった。急いで、カゴを用意して、自分の支度もする。
「モモ、すぐに楽になるからね」
お尻が痛いのか、痒いのか頻繁に舐めている。
財布の中身を確認して、バッグに入れる。
モモをカゴに入れると、急いで病院に向かった。