ピュア・ラブ
「お客様、何かお飲みになりますか?」

銀のトレイを持ったホテルマンが声をかけてきた。

「こちらで頂けるんですか?」
「ええ、お持ちいたしますよ?」
「何がいいかしら」
「おススメはアセロラです。ビタミン豊富でお肌にとてもいいです。あとは、ゴーヤですね」
「え? ゴーヤ?」

苦味しか感じられないが、ジュースにするとどうなってしまうのだろう。

「はは、ゴーヤは皆さま、一口で降参なさいます」
「ふふ、そうですか。ではアセロラを頂きます」
「畏まりました」

ホテルはこうやって過ごすものなのかも知れない。海外にはまだ行ったことがないが、国内旅行では、見たいところを重点に置き、ホテルはビジネスホテルに宿泊してきた。こうした「もてなし」を受けるのは初めてだ。
長湯が苦手なので、温泉にも興味があまりない。ただ、浸かれればいいと思って来た。
ほんの少しだけど、違う視点から物を見て、感じるようになる。橘君のお陰だと思っている。
本当に嫌だった。何故、私にかまうのかと嫌で仕方がなかった。
一緒に買い物をし、ご飯を食べ、そして手を繋いだ最初の人。
抱きしられた温もりが忘れられない。
心がもやもやして、これは何なのだろうとずっと考えてきた。
その答えがやっと分かった。橘君が好きなのだ。

「お待たせいたしました」

パラソルのテーブルに赤い色のジュースが置かれた。
沖縄らしく、グラスの所に、ハイビスカスの花があしらわれていた。

「ありがとうございます」
「観光でご不明な点がありましたら、コンシェルジュにいつでもお尋ねください。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」

そう言って、ボーイの人は戻っていった。
ストローで一口飲むと、酸っぱさが先に来たが、程よい甘さもあり、とても美味しかった。
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