ピュア・ラブ
「橘君、このジュース飲んだ? とっても美味しいわ。橘君にも飲ませてあげたい」

彼が、私に沖縄で見せたい所が沢山あったと言ってくれたように、私も同じようなことを思もう。
いつまであのはがきが送られてくるのかは分からない。きっと、あのはがきは、橘君が私に対して、謝りたいことがあったから送ってくるのだと思う。特別な感情があるわけでもない。送られてくるはがきを私は待っている。
そして、はがきが送られてこなくなったら、自分の気持ちに終止符を打とう。それまでは橘君を好きでいることを許して欲しい。
初めてときめく人に出会えたこと、口に出さなくても通じる人に出会えたこと。
そのことに感謝したい。
そう思うと、いつも暗く重かった心が、晴れて行くのがわかった。
結局その日は、外には出ず、ホテルを散策して、恥ずかしながら、室内プールで泳いでみた。
施設までを詳しくみていなかった。25メートルの室内プールを見つけた時、「泳げる?」と聞いた橘君の言葉を思い出した。
ホテル内のショップで水着を買い、何十年振りかで水着姿になった。
プールに入るまで、恥ずかしくて仕方がなかった。ホテルのショップにはビキニばかりで、ワンピーズタイプの水着を探すのに苦労した。恥ずかしくてビキニなど着られない。
海に入れないせいか、プールには割と人が泳いでいた。
此処は屋外のプールとはちがい、ちゃんと泳げるように長方形の形だった。
泳げるのかひやひやしながら、平泳ぎをしてみる。
「結構、泳げるわ」。そう思ったけれど、プールの半分も行かないくらいで足をついてしまった。そこからクロールに変え、最後まで泳ぎ切る。
息継ぎの仕方も忘れてしまっていたようだ。苦しかった。でも、橘君に泳げると言えるくらいではないか。
それから何往復もして足をつかず、25メートルを泳ぎきるまで練習をした。私がスポーツをしていたら、きっとかなりの負けず嫌いだっただろう。
泳ぐことはこんなに疲れるものなのか。
部屋に入り、シャワーを浴びると、ぐったりして、ベッドに倒れ込んだ。
カーテンを引くことなく開けっ放しの窓からは、夕日がきれいに望めた。


「この夕陽も橘君と見たかったわ」

そう言いながら、夕日に呼ばれるようにバルコニーに出る。
沖縄といっても冬だ。流石に風はつめたい。
シャワーを浴びたばかりで濡れた髪が冷たい。
部屋の中に入り、沈むまで夕陽を見ていた。
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