ピュア・ラブ
「黒川、向こうに渡ろう。日陰だから」

橘君がいうと、確かに、向こう側の道路は日陰になっている。
信号のある所まであるき、横断歩道を渡った。

「黒川、暑さに弱くて、肌が弱いんだから、上に一枚着るとか、帽子を被るとかしないと、ばてるぞ」

その通りである。
自転車で走ってしまうからいいだろうといつも簡単に考えているから、こういう突然のことに対処できない私のいけない所だ。

「夏休み入る前のマラソン大会、バテて保健室に行っていただろ。それだけじゃなく、暑いのに外で弁当を食ってるから、食欲もなくなって残したろ。涼しい所に行けばいいのにって思っていたけど、それが黒川の流れだったんだよな」

もう、橘君に何を言われても驚かないと思っていたけれど、そこまで見ていたのかと、正直怖くなった。
私は、周りをまったく知りもせず、気にもしていなかったから、気楽に行動していたけれど、そうではなかったのだ。何か変な行動をしていなかっただろうかと、恥ずかしくなる。
弁当を毎日作っていた。私の高校での定位置があった。図書室と、裏庭だった。
高校はお金持ちも子供が多く、寄付金もあったのか、設備は充実していた。図書室は本もたくさんあり、時間を忘れる程ずっと本を読んでいた。
新聞配達のバイトをしていて、朝が早く、読みながら寝てしまうことも度々あったが、それはそれでとても充実していた。
裏庭は噴水があって、夏はその水しぶきが涼しげで、本を濡らしてしまう程だったが、ずっと流れる水をみているのは不思議と心が落ち着いた。
私の定位置は、ベンチが並んでいる一番奥で、いつもそこにいた。笑ってしまうが、そこでも昼寝をしてしまっていた。

「よく、寝てたし」

それもみられていたのか。
私は、とにかく眠かった。新聞配達は想像以上に辛く、昼寝をしないと、授業に差し障りがあった。昼ごはんを食べて、お腹が一杯になると、眠くなる。仕方がないことだ。

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