ピュア・ラブ
「モモを撮るのが楽しみだね。たくさん撮ったらみせてよ。言ってなかったかな? 俺の家にも猫がいるんだ。野良猫でね、弟が拾ってきたんだけど、もう13歳なんだ。オスですっかりおじいちゃん。眠っている時間が多くなって、毎日、自分の場所で寝ているんだ」

そうなんだ。この前行ったとき、まるで気配を感じなかった。今日お邪魔したら、見てみたい。

「ジャンプも前のように出来なくなっちゃってさ、人間よりも先に死んじゃうって分かっているから、辛いよね。名前はねレオって言うんだ」

いい名前だ。でもどこかで聞いた事がある名前だ。

「何処かで聞いた事があるでしょ。単純なんだけど、思っていることと一緒。そこから拝借しました」

それは、私と変わらない。私も、いつか猫を飼ったら、「モモ」にすると決めていた。
だから、初めて病院に行った時、躊躇うことなく、名前が記入できたのだ。

「もしかしたらとずっと思ってたんだけど、黒川のモモ、『松谷みよ子のモモちゃんとアカネちゃん』から取ったんじゃない?」

私は、歩く足が止まった。
初めて図書館で「モモちゃんとアカネちゃん」の本読んだ。表紙の人形がとても可愛く、手に取った。
そこに登場する猫の名前はモモではなかったが、自分の名前の「あかね」と合せ、いつか猫を飼ったら、「モモ」と名付けるとそのころから決めていた。
お年玉を厄病神に取り上げられる私が、なんとか誤魔化して、買った最初の本でもある。
見つからない様に隠して、何回も読んだ。
バイトをするようになってやっと全巻買う事ができた想い出の本だった。

「黒川? どうした? お、当てられてびっくりしたんだな。俺って感がいいなあ、黒川がモモと一緒。『モモちゃんとアカネちゃんだ』

止まってしまっていた私の背中に橘君は手を回した。
そして、少しだけ押して、歩けと合図した。この人にこれ以上関わると、私が、ダメになってしまうかもしれない。
一人ではいられなくなるかもしれない、そんな恐怖感が私を襲った。

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