ピュア・ラブ
「下ばかり向いて歩いてたって、金なんか落ちてないぞ」
「え?」
「って、子供の頃よくじいさんにそう言われたんだ。下ばっか見てると、人とぶつかるぞ」
橘君はそう言って、私を端に寄せた。
確かに私は、人の顔を見て歩いていない。それは気が付いたときにはそう歩いていた。もう、いつからこうなったのかも忘れた。
私は、こうして色々としてくれる橘君の顔さえも見ていない。
モモを病院に連れて行った時に顔を見たが、「獣医」としての意識で見ていた。だから、「橘君」として顔を思い出そうとすると、卒アルを見せてもらった高校生のころの顔を思い出す。
「ありがとう」
そうは言われても、すぐには出来ない。それは私にとって、大変な事なのだ。
駅からはだいぶ歩かないと病院には着かない。この暑い中、歩くのは大変だ。
だけど、不思議なことに、億劫ではなかった。
私は、通勤で自転車を使っている。電車通勤をしなければならない職場は除外しした。駅前に買い物に行くときは、自転車なので、距離や時間も気にしないが、橘君はどうしているのだろう。
研修に行っている病院は、電車を使って行っているのだろうか、それとも、車でも使っているのだろうか、なんとなく、気になった。
「俺も滅多に駅を使わないから、歩くと距離があるなあ。病院では、立つか、座るか。運動もしてないし、ダメだな」
駅を使わないのか、車通勤の可能性が大だ。
橘君はぽつぽつしゃべった。いろいろ考えているのだろうな。何も考えていない私とは大違いだ。
こんな私でも、両親との関係がいい方向にいかないものだろうかと、努力をしてみたことがあった。
だが、あの厄病神にとって、私は、厄介者で、金食い虫で、打ち出の小槌でしかなかったのだ。
今でも何かにつけ、両親の事が頭に浮かぶと、まだまだ私は、悪魔になりきれていないと思う。橘君を見ているだけでも、金ではなく、いい家庭に育っている、両親がちゃんとしているのだろうと、思わなければいいのに考えてしまう。こうして、両親は、私の頭の中まで浸食するのだ。どこまでも追いかけ、離さない。
「え?」
「って、子供の頃よくじいさんにそう言われたんだ。下ばっか見てると、人とぶつかるぞ」
橘君はそう言って、私を端に寄せた。
確かに私は、人の顔を見て歩いていない。それは気が付いたときにはそう歩いていた。もう、いつからこうなったのかも忘れた。
私は、こうして色々としてくれる橘君の顔さえも見ていない。
モモを病院に連れて行った時に顔を見たが、「獣医」としての意識で見ていた。だから、「橘君」として顔を思い出そうとすると、卒アルを見せてもらった高校生のころの顔を思い出す。
「ありがとう」
そうは言われても、すぐには出来ない。それは私にとって、大変な事なのだ。
駅からはだいぶ歩かないと病院には着かない。この暑い中、歩くのは大変だ。
だけど、不思議なことに、億劫ではなかった。
私は、通勤で自転車を使っている。電車通勤をしなければならない職場は除外しした。駅前に買い物に行くときは、自転車なので、距離や時間も気にしないが、橘君はどうしているのだろう。
研修に行っている病院は、電車を使って行っているのだろうか、それとも、車でも使っているのだろうか、なんとなく、気になった。
「俺も滅多に駅を使わないから、歩くと距離があるなあ。病院では、立つか、座るか。運動もしてないし、ダメだな」
駅を使わないのか、車通勤の可能性が大だ。
橘君はぽつぽつしゃべった。いろいろ考えているのだろうな。何も考えていない私とは大違いだ。
こんな私でも、両親との関係がいい方向にいかないものだろうかと、努力をしてみたことがあった。
だが、あの厄病神にとって、私は、厄介者で、金食い虫で、打ち出の小槌でしかなかったのだ。
今でも何かにつけ、両親の事が頭に浮かぶと、まだまだ私は、悪魔になりきれていないと思う。橘君を見ているだけでも、金ではなく、いい家庭に育っている、両親がちゃんとしているのだろうと、思わなければいいのに考えてしまう。こうして、両親は、私の頭の中まで浸食するのだ。どこまでも追いかけ、離さない。