ピュア・ラブ
「ふう、暑いから、そうでもない距離も長く感じるなぁ、大丈夫? 黒川」
「はい、大丈夫です」
「やっと家が見えた。着いたら、コーラをがぶ飲みしよう」

それはいい考えだ。私も、コーラというか、炭酸を飲みたい気分だ。
私が住んでいるこの街は、行ったことはないが、映像でよく見る仙台駅前。広く真っ直ぐな道路と両側に広がる街路樹がとてもよく似ている。
この暑い夏でも日陰に入ると、風が心地よい。
海に近いせいもあるが、商店は浮き輪や水着を多く取り扱った店と海鮮の店が目立つ。
回転すしもとても美味しい。以前は全く寄れず、スーパーで折り寿司を買って食べていたが、ランチ時間にふと見ると、カウンター席に1人で座っている女性が何人もいた。
週末に勇気をだして入ってみると、何も気にすることはなかった。
サーフボードの店前は、若者でにぎわい、夏の楽しさが出ていた。
商店の賑わいは突然途切れ、住宅街になった。
「たちばな動物病院」この駅前の道を真っ直ぐに来て、商店街が途切れた、最初の道を曲がるとあった。地図にも書きやすく案内しやすいだろう。
病院の駐輪場も駐車場も満杯だった。お父さん先生が一人で診察をしているに違いない。橘君が手伝わなくてもいいのだろうか。私は、心配になった。

「橘君、診察を手伝わなくてもいいの?」
「え? えっと……今、俺のことを呼んだよね?」
「うん」

橘君はどうしたのか、黙って私に背を向けてしまった。やっぱり私が、口を開くと碌なことがない、黙っていればよかった。

「ごめん、俺、今照れちゃって、にやけているから、もう少しまって」

見ると、両手を腰に当てて深呼吸をしている。私は、悪いことを言ったのではなく、喜ぶことを言ったようだ。

「えっと、ごめん、診察だよね。動物たちには悪いけど、今は黒川の方が大事だから、許して貰おう」
「私は、説明書を読んで頑張ってみるから、診察に行って」
「それはダメ」

どうしたらいいものか私は、対応に困った。

「今を逃したら、きっと後悔するから」

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