ピュア・ラブ
何に対して後悔するのだろう。
そう考えていると、橘君は自転車をさっさと止め、カゴのメロンとデジカメの入った袋を持って歩いて行ってしまった。
鍵を掛けて、後を追いかけると、ドアを開けて待っていてくれた。

「どうぞ」
「おじゃまします」

家の中は、少しムッとしていた。
窓は開いているようで、風が家の中を通っていた。

「あ~ 暑い、今クーラーを入れるから! あ、こっち来て!」

先にどんどん家の中に入ってしまった橘君だ。私は、スリッパを出されて履くと、その場で待っていた。
声のする方に向かって行くと、以前お邪魔したダイニングキッチンを抜け、リビングになった。
余所のお宅にお邪魔をしたことがない私は、何もかもが珍しく映った。
大きなベージュのソファに、大きなテレビ、ガラスボードには、高級そうなグラスが綺麗に並べられていた。
リビングの中程にいくと、ソファに何かいるのが見えた。黄色い毛糸で編まれた、花形の座布団に猫が寝ていたのだ。

「レオ」

私は、そう呼んだ。
すると、レオは耳をぴくっと動かし、目を開いた。
レオは、黒猫だった。

「ごめんなさい、起しちゃったわね」

座ってと言われてもいないのに、私は、レオの隣に座って、鼻筋を撫でた。モモと同じようにごろごろと喉を鳴らしてくれた。橘君は13歳だと言っていたが、毛艶もよく、黒光りという言葉がぴったりだ。
丸い花形の座布団は、レオが丸くなって寝ていると、レオが花に囲まれているように見え、とても可愛かった。
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