ピュア・ラブ
「はい、黒川、一気に飲もうぜ」

そう言われて、渡されたコップには、口まで一杯のコーラが入っていた。
橘君は立って一気にコーラを飲む。私もそれにつられて飲んだ。
顔をしかめる程の強い炭酸で、胸をトントンと叩いて、ゲップが出そうになるのを必死でこらえる。

「げっふ……ごめん、ごめん。自然現象だから許して」

男の橘君は大きく、豪快なゲップをした。

「レオだ、カッコいいだろ」
「うん」

私は、レオを見た瞬間、これは「レオ」ではなく、「ロデム」の方が合っていたのではないかと思った。

「ロデムみたい」
「え? 知ってるの? あのアニメ。俺達は知らない世代じゃん?」
「昔、テレビで見たことがあって」
「そう、そうなんだよ。俺さ、間違ったんだよ。レオだとばかり思ってたんだけど、ロデムだったんだ。間違いを直そうとした時には、レオはレオの名前を憶えちゃってさ」

そう言って、橘君は、レオを挟んで、私の隣に座った。
大学時代、どのチャンネルもつまらなくて、ローカルな局をたまたま選局した。すると、とても古い絵のアニメを放送していた。途中からだったが、なんだかとても面白くて、最後まで観てしまい、それから、最終回まで欠かさず観た。

「やっぱりロデムだったよなあ」
「レオで合ってるから大丈夫」
「ありがとう、黒川」

私は、レオをじっと見ていた。撫でながら、橘君が私を見ているのを感じた。
それを感じ始めると、とたんに緊張した。考えてみれば、二人きりである。

「あ、メロン」

傍にあった果物の紙袋が目に入って、慌てて橘君に手渡した。

「ごめんね、気を遣わしちゃって」
「ううん、私こそ、急にお邪魔しちゃったから」
「勉強会を始めようか」
「お願いします」
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