ピュア・ラブ
そうして、私は、橘君から、デジカメの使い方を教わった。
説明がうまい橘君だったが、言葉の意味から解らなかった。カタカナなのか、英語なのか、はたまた和製英語なのか。でも、最初の設定をしてもらってからは、スムーズに行った。
最初の一枚は、「レオ」だった。

「うまく撮れるなあ。黒猫ってさ、カメラが焦点合わせられないんだよね。スマホのカメラもそう、うにょうにょ動いて、真ん中はどれなの? 迷ってるんだよね。いいなあ、俺も最新機種買おうかな」

カシャカシャと連写をしたレオは、どれも寝ていたが、ピンボケや手振れをすることなく、凄くキレイに撮れていた。
私達はいつの間にか、ソファをおり、カーペットに座り込んで、レオを狙って夢中で写真を撮った。

「白髪」
「そうなの、レオはおじいちゃんだから、白髪になったの。黒猫も白髪になるんだよ」

所々にまじる白髪。レオはおじいちゃんだ。

「あ~疲れた」

玄関から、声が聞こえ、私は慌てた。
すっと立ち上がって、服を直した。
リビングに顔を出したのは、お父さん先生だ。診察が終わって家に戻ったのだろう。
だとすると、私は、知らず知らずに長居をしてしまっていたようだ。

「なんだ、光星。居たなら、診察を手伝え」

肩に手をクロスして乗せ、首を左右に振る仕草を見せる。肩が凝ってしまったようだ。

「すみません。お邪魔しております。私が、無理を言ってしまって」
「黒川さんがいたんだね、いらっしゃい」
「違うよ、黒川が悪いんじゃない。俺が、診察をしないと言ったんだ。父さん、俺だって休みが欲しいんだ、いいじゃないか、今日くらい休んだって」

まずい、私が、来てしまったことで、ケンカになってしまったらどうしよう。
人が争うのはもうこりごりだ。大きな声も、言い争いも聞きたくない。

「別に、休んだって、いいさ。ただ言ってみただけだ。黒川さん、ゆっくりしていきなさい」
「いえ、もう、用は済みましたので」
「父さん、黒川からメロン頂いたんだ。食べる?」
「おお、大好物だ。悪いね黒川さん」
「いいえ」

お父さん先生も休憩で昼ごはんを食べるだろう。私は、そろそろ失礼することにする。
テーブルに広げてあったデジカメを袋にしまい、レオに挨拶する。
モデルになってくれてありがとう、そう言って、喉を撫でてあげた。
橘君の言っていた通り、レオはびくともしなく、ずっと寝ていた。まるでこの家の大黒柱のようだ。
モモはまだ、本調子じゃないけれど、活発に動き回る。人間同様、猫も年をとると、動かなくなるんだな。

「すみません、お邪魔しまして。失礼します」
「ああ、一緒に昼でも食って行けばいいのに。母さんが用意してあるから」
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