ピュア・ラブ
めぐり・愛

1

あれだけ暑い夏も、すっかり遠のき、空も空気も秋めいて来ていた。朝晩は冷え込むようになり、冷え症の私には辛い季節になった。
モモは、傷もすっかりよくなり、病院に行くこともなくなっていた。
体重も増え、手術に最適な月齢になり、避妊手術をすることになった。
お父さん先生には、「出来れば午前中に連れて来て欲しい」と言われていた。平日は無理なので、土曜日の今日、連れて行くことにした。
自転車のカゴにモモのカゴを載せると、風が冷たいと寒いだろうと思い、カゴの全部をブランケットで覆った。
モモは、カゴに入ると病院だと分かっている。病院にいくと、自分の身体が楽になると知っている。だから、暴れることなく大人しくしてくれる。
通いなれた道を自転車で通ると、街路樹の葉も沢山落ちていた。

「こんにちは」

顔をすっかり覚えた受付の人に挨拶をする。愛想笑いでもない、親しみのある笑顔でいつも迎えてくれる。そこは若い人とは違う年配の落ち着きなのかもしれない。
この人は、この病院に勤めて長いのだろうか。受付にも資格がいるのだろうか。人と接することが好きな人じゃないと勤まらないだろうなと、65そんなことを考えた。
待合室には、誰も待っておらず、週末の休みは午後が混むのだろうかと、そんなことを思った。

「黒川」

そう、名前を呼ばれ、診察室のドアが開くと、久しぶりに橘君が顔を出した。
私は、モモのカゴを持ち、呼ばれた診察室に入る。

「久しぶり」

そう声をかけてくれた橘君。本当に久しぶりだ。きっと忙しくしていたのだろう。

「ずっと、研修先でこき使われてた。モモはどうしているか気になったよ」

瀕死の状態から救ってくれたのは、橘君だ。気にしてくれたのだろう。

「モモのご機嫌はどうかな?」

そう言われて、診察台の上に乗せておいたカゴの蓋を開ける。
モモは、ロックを外す音に反応して、上を見る。
私は、モモを出して、カゴを自分の足元に置いた。

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