ピュア・ラブ
モモがいると、何かと遊んでしまっていた。
いけないなあ、と思いつつ、あの目で見られると、つい、甘くなってしまう。
モモのいない昼下がり。いつものように、掃除と洗濯を済ませ、昼を食べる。
ちらりと時計を見て、そろそろモモの手術が始まるな。と思った。
橘君、どうかモモをお願い。私は、思わず、両手を合わせ祈る。
じっとしていると嫌な事ばかり考えてしまう。私は、録画してあったドラマと映画を観ることにした。
今回のドラマはどれも面白い。恋愛ものもコメディでなかなか笑えた。
私は、恋愛感情を持ったことがない、故に、初恋と言わるものも体験したことがない。人に興味がないのだ。関われば嫌なこともある、一人が一番気楽でいい。
ただ、アイドルや、タレント、俳優で好きな人はいる。恋愛感情では全くないが、それが異性を好きな感情と言うならば、初恋なのかもしれない。

「あ~眠い」

モモより緊張していた私は、昨日も夜更かしをしてしまい、なかなか寝付けなかった。
昼ごはんも食べ、お腹も一杯になると、自然現象で、眠たくなった。
横に転がり、テレビを観ていたが、いつの間にか、眠っていた。

「はっ……何? びっくりした」

殆ど鳴らない携帯が鳴り、私は、びっくりして飛び起きた。

「えっと、どこにあったっけ? 眠っちゃった」

音のする方に行き、病院に行ったとき持って行ったバッグを探る。

「あ、病院」

モモに何かあったのだろうか、私は、慌てて通話ボタンを押した。

「もしもし!」
『ああ、俺、橘だけど』
「はい、モモがどうかしましたか?」
『いや、無事に終わったよって報告をしようと思って』

良かった。何事かと思った。わざわざ病院では、こうして電話をしてくれるのだろうか?

『黒川?』
「え? ああ、ごめんなさい。ほっとしちゃって」
『腰でも抜けた? モモは術後の麻酔もとけて、今は寝てるよ。明日の昼に来る?』
「あ、はい」
『そう、じゃあ、準備しておくよ』
「ありがとうございました」
『よそよそしいよ、ははっ』

だって、モモの主治医さんだから。
電話だと話さなくてはならない。どうしていいか戸惑ってしまう。
いつも橘君と話をするときは、橘君が私の感情を読み取って会話が成立していた。だけど、電話だとそうはいかない。
暫く沈黙が流れ、私は、切った方がいいと判断した。自分から切るのは好きじゃない。出来れば橘君から切って欲しかった。

「あの……じゃあ、明日」
『うん、明日な』

そう言って、私は、耳元から携帯を外して、電話を切った。
いつもと違う橘君の声が、まだ、耳元に残っている。
どんな顔をして電話をしていたのだろう。
おかしい、会って話をしているときは、常に下を向いているのに、電話の会話では顔の表情が気になるなんて。
持ってはいけない感情が、私の心に芽生え始める。
本当に近づくことは危険だ。
橘君は同級生に逢えたと思って懐かしいだけだ。私は、同級生の認識すらなかった。
モモの病院通いも、この手術が最後で暫く行かなくなる。
あとは、健康診断として、年に一度くらい行けばいいだろう。
家が近いことが不安材料だが、この土地に越してきて、モモを拾うまで、橘君とは偶然でも会わなかったのだ。これからも街で出くわすことはないだろう。
橘君みたいにいい人は、私みたいな人間と関わってはいけない。負の悪魔の連鎖は、私で食い止めなければならない。あの厄病神が生きているうちは。
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