ピュア・ラブ
「はい……」
『あ、俺』
「え?」

俺と言って私が分かる人間は橘君だけだ。どうしたと言うのだろう、モモに何かあったのだろうか。
私は、玄関サンダルを履き、玄関を開ける。

「迎えに来ないからどうしたのかと思って……モモを連れて来たよ」

そう言って、モモを病院のカゴだろうか、それに入れて連れて帰って来てくれた。

「すみません……」
「黒川? どうしたんだ?」
「何でもないです」
「何でもないって顔じゃないぞ」

橘君は、ドアを大きく開いて、モモのカゴを玄関先に入れた。
手を私の額に当てると、

「凄い熱じゃないか」

そう言って、私を抱き上げた。
びっくりするも何も、私は、気絶しそうな程、びっくりした。
広くないアパートの一室だ、すぐにベッドの場所は分かる。
橘君は私をベッドに寝かせると、すぐに玄関に置いてあったカゴを持ってきた。
手慣れたようにゲージにモモを入れると、台所に行った。
水が流れる音がしたので、きっと、何かしているのだろうと思った。
私は、ゲージに入ったモモが気になった。
身体には、ネットのような洋服を着せられ、またエリザベスカラーをつけられていた。
あの小さな体になんと可哀想なことだ。私が代わってやりたい。
何度も体を舐める仕草をするも、カラーが邪魔で出来ないようだ。
傷口を舐めると、ばい菌が入ってしまうから、カラーをつけているのだろう。

「使っていいか分からなかったけど、綺麗だったから」

そう言って、橘君は私の額にタオルを当ててくれた。
どきどきがおさまらない。近しい人間だってそこまでするのだろうか。
それにそんなに体重だって軽くはない。具合が悪いのに、そう言う所はやっぱり女として気になる所だ。
傍にいる橘君の顔もまともに見られない。何せ、ベッドに横になっている私の顔を覗きこんでいるのだし。それもかなり恥ずかしい。

「薬は飲んだのか?」
「うん」
「何か食べたのか?」

それには、首を横に振った。熱で顔が赤いのが、恥ずかしさのを消しさってくれて助かる。

「何度も電話したんだけど、出ないから、何かあったのかと思って来ちゃったよ。正解だったね」

そうだったのか。私は、電話の音も気が付かないほど、寝てしまっていたのだ。悪いことをしてしまった。忙しく診察していただろうに、本当にいい人だ。
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