ピュア・ラブ
「ただいま」
こういう時は、どういったらいいのか、わからない。なんと温かい言葉なのだろう。
私は、モモが来るまで「ただいま」と言ったことがない。「お帰り」とも言われたことがない。
橘君が戻ってきて、そう言った。
私は、寝ていたが、体を起こした。
「コンビニで食えそうなものを買って来た。何か食べないとダメだぞ」
「すみません」
ベッドに体を起こすと、橘君が、おにぎりを渡してくれた。
「好みも何もわからないけど、いいよな。食べて」
「はい」
差し出されたおにぎりを食べた。この日の初めての食事だ。おいしかった。
橘君は傍にずっといた。
食べている所を見られるのは恥ずかしかった。人と食事をしたことがなく、とてつもなく恥ずかしい。
「薬はあるの?」
「はい」
「モモだけど、また傷口の消毒があるんだ。それから一週間以内に抜糸をする。具合が良くならないようなら、病院に電話して? いい?」
私は、頷いた。
買って来てくれたおにぎりを二個も平らげた。
橘君は、お茶も買って来てくれ、蓋を開けて渡してくれた。気遣いの人だ。私はそれが出来るだろうか。
「何か、俺も腹が減って来たな」
私は、ハッとなった。橘君に比べ、なんて気の利かない女なのだろうか。
ベッドの上に乗っていたコンビニの袋を慌てて広げる。まだ、おにぎりは入っていた。
「あ、あの、すみません。気が利かなくて」
「あ、いや、そう言う意味じゃないけど……頂こうかな」
私は、袋を広げて、橘君の前に差し出した。
人と関わって来なかった私は、どうしていいか分からないのだ。
直さなくてはと思わない。これからも一人だ。そう思っていた。
でも、やっぱり、気をつけよう。それは大人のたしなみだ。
いったい何個買って来たのだろう。おにぎりはまだ三個も残っていて、あとは、ゼリーが入っていた。
こんなには食べきれない。あ、そうか、明日の朝にも食べられるように買って来てくれたのか。本当に私は情けない。
ぱりぱりとノリの割れる音がする。橘君を見ると、口に一杯おにぎりを入れているようで、リスが、口に一杯木の実を入れているように膨らんでいた。病院で診察していると、食事をちゃんとした時間に取れないのだろう。大変な仕事だ。
毎日、命と向き合うとは、どんな感じなのだろう。私は、こんな腐った人生、いつ無くなってしまってもいい。そう思いながら生きてきた。きっと私のように命を大切にしない人間は、許せないに違いない。
こういう時は、どういったらいいのか、わからない。なんと温かい言葉なのだろう。
私は、モモが来るまで「ただいま」と言ったことがない。「お帰り」とも言われたことがない。
橘君が戻ってきて、そう言った。
私は、寝ていたが、体を起こした。
「コンビニで食えそうなものを買って来た。何か食べないとダメだぞ」
「すみません」
ベッドに体を起こすと、橘君が、おにぎりを渡してくれた。
「好みも何もわからないけど、いいよな。食べて」
「はい」
差し出されたおにぎりを食べた。この日の初めての食事だ。おいしかった。
橘君は傍にずっといた。
食べている所を見られるのは恥ずかしかった。人と食事をしたことがなく、とてつもなく恥ずかしい。
「薬はあるの?」
「はい」
「モモだけど、また傷口の消毒があるんだ。それから一週間以内に抜糸をする。具合が良くならないようなら、病院に電話して? いい?」
私は、頷いた。
買って来てくれたおにぎりを二個も平らげた。
橘君は、お茶も買って来てくれ、蓋を開けて渡してくれた。気遣いの人だ。私はそれが出来るだろうか。
「何か、俺も腹が減って来たな」
私は、ハッとなった。橘君に比べ、なんて気の利かない女なのだろうか。
ベッドの上に乗っていたコンビニの袋を慌てて広げる。まだ、おにぎりは入っていた。
「あ、あの、すみません。気が利かなくて」
「あ、いや、そう言う意味じゃないけど……頂こうかな」
私は、袋を広げて、橘君の前に差し出した。
人と関わって来なかった私は、どうしていいか分からないのだ。
直さなくてはと思わない。これからも一人だ。そう思っていた。
でも、やっぱり、気をつけよう。それは大人のたしなみだ。
いったい何個買って来たのだろう。おにぎりはまだ三個も残っていて、あとは、ゼリーが入っていた。
こんなには食べきれない。あ、そうか、明日の朝にも食べられるように買って来てくれたのか。本当に私は情けない。
ぱりぱりとノリの割れる音がする。橘君を見ると、口に一杯おにぎりを入れているようで、リスが、口に一杯木の実を入れているように膨らんでいた。病院で診察していると、食事をちゃんとした時間に取れないのだろう。大変な仕事だ。
毎日、命と向き合うとは、どんな感じなのだろう。私は、こんな腐った人生、いつ無くなってしまってもいい。そう思いながら生きてきた。きっと私のように命を大切にしない人間は、許せないに違いない。