ピュア・ラブ

2

モモの抜糸も無事に済み、私は、「たちばな動物病院」に行くこともなくなった。
モモはどんどん大きくなり、橘君のアドバイスで買ったデジカメは、大活躍で、パソコンの中には、モモの写真でいっぱいになった。
手のひらに乗る程の小ささだったモモは、あっという間に大きくなり、あの可愛かった赤ちゃんの面影は無くなっていった。
それでもあの「抱っこひも」は大好きで、中に入ると、いつまでも出では来なかった。
子猫の時と違い、肩にずっしりとくる重さに、湿布を貼る日々だ。
私は、橘君の電話番号と、アドレスを携帯に登録しなかった。
人と関わってはいけない。それだけは決めていることだからだ。
橘君と出会ったことで、私の周りが変りだした。いつものように振る舞っているはずなのに、会社でも声をかけられるようになってしまった。
昼休みは、食堂ではなく、工場の外の公園でお弁当を食べている。
なのに、そこに、昼ごはんを食べ終えた、工場の男性が野球をするようになり、話し掛けられる。
向こうは私を知っている。私は、名前も知らない。社員なのに、いけないことだ。
バリアを張っていた私の周りが、はがれはじめたのかもしれない。
仕方なく休憩の場所を変えた。
年末に近づくと街はせわしなく、賑やかになる。クリスマスと正月の年末商戦が激しい。
私は、憂鬱だ。
厄病神ともいえる両親が、二人そろってくる。
その日が、やってきた。
アパートで、モモをお腹の上に乗せ、ゴロンと横になり、テレビを観ていた私は、家のベルで、起き上がる。

「モモ、待ってて」

インターフォンを取ることもない。誰だか分かっているからだ。
だけど、よく恥ずかしげもなく来られるものだ。そこだけは感心する。一生懸命自分の力だけで生きている娘に対し、骨の髄までしゃぶってしまうような行為。
世が世なら、私は、遊郭にでも売り飛ばされていただろう。
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